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2023.11.15
Specialpage【vol.8】
アーサー王もビックリ!?
産業革命から生まれたウール。
ーー早いもので、今年ももう11月です。秋冬のアイテムは、もう出揃った感じですか?
辻󠄀 そうですね。ビシッと揃えさせてもろてます。
德田 ランスロットコートも入ったしね。
ーーブルーナボインの秋冬といえば、の。
德田 そう。コレクションラインのアイテムなんだけど、ここ何年かは定番的に続けてるという。
ーー毎年、新しい生地のバージョンが登場しますよね?
德田 今年もあるのよ~。ちょっとスゴいよ、今年は。紡績からやった生地があるから。
ーー紡績ということは…。
辻󠄀 綿(わた)から。で、その綿を紡いで糸をつくるところからやりましてん。
ーー大作じゃないですか! どの生地ですか?
德田 ちょっとパープルっぽい、このウールの生地。紡績の仕方もちょっと特殊でね。英国式紡績っていう、イギリスの産業革命時代につくられた、世界的にも希少な機械を使うという。
ーー産業革命って、めちゃくちゃ昔じゃないですか?
辻󠄀 250年前かな。日本はまだ江戸時代。
ーー江戸…。その英国式紡績では、どんな生地がつくれるんですか?
辻󠄀 簡単に言うとね、糸って紡ぐときに、ビューってよじりながら引っ張るんです。でもウールってクリンプ(縮れ)があるから、引っ張った分だけ元に戻ろうとすんねんけど、そのときに空気の層が糸の中にできる。その工程を、機械でどれだけ手作業の優しさに近づけるかっていうのを考えたのが英国式紡績。
德田 限りなくほんとの羊さんの毛に近い風合いが出るからね、生地もふっくらと膨らみのある仕上がりになるし。
辻󠄀 その代わり羊の原毛も、もの凄くいいのを使わなアカンけど。じゃないと紡績してる途中で切れてしまう。
ーーいい原毛を使ったんですか?
德田 使ったね~。年間に1.5トンしか採れない、シェットランド諸島のプレミアムな羊毛を。しかも手で摘んでるという。
ーーえ、羊の毛を手で摘むんですか? 機械と何か違いがあるんですか?
辻󠄀 手でやると部分的に採れるんちゃうかな。ふわっふわのとこを選んだりして。汚い話やけど、お尻の周りとかはどうしても汚れるし、座って地面に触れるとこは剛毛になったりするやんか。
德田 原毛の白度も、もの凄く高いんだって。で、その綿の段階から色を指定させてもらって、5色をミックスして糸をつくってもらった。
辻󠄀 色のブレンドの割合まで考えたもんな。
德田 そうそう。よ~く見てもらったら生地の中にターコイズブルーみたいなんが入ってるんだけどね。そのターコイズブルーの割合を5%にするか8%にするか、そんな感じで色のブレンドをめちゃくちゃ細かく調整してもらった。だから遠目だとパープルに見えるんだけど、5色使ってるからね。生地になったときにめちゃくちゃ深みがでる。
ーー近くで見たら単色じゃないのがよくわかりますよね。面白い! こういう色を出すときって、最初にまず仕上がりの色をイメージするんですか?
德田 そう。だいたい自分の中のイメージして、今回だったらどういう5色を組み合わせたら、イメージに近く尚且つ複雑で深みのある色になるかなってところから考えた。それを現場の人たちに伝えて、実際にその場で5色をブレンドしながら決めていった。
ーーえ、その場で見ながらですか?
德田 そう。紡績して糸にしちゃうと、もう変えられないから。綿をひねってひねって、パープルを感じながらもグレーであって、ちょっとグリーンも見えたら嬉しいな、みたいな。
ーーめちゃくちゃ注文多いじゃないですか(笑)。
德田 でも、そのおかげでホントにいい生地ができた。古い機械を使うと独特な雰囲気も生まれるしね。ランスロットのエレガントな雰囲気とも凄くマッチしてる。ちなみに、このパープルのウールのランスロットコートは、ブルーナボインの直営店限定でございます。
ーーそうなんですね。
辻󠄀 こういう素材の何がいいかっていうとね、とにかく“ゆっくり“なのよ。
ーー織るのがですか?
辻󠄀 織るのもやし、紡ぐのもやし、編み立てんのもそやし、糸が緊張してないのよ。
德田 何でもクイックな方に向いてる現代で、生地づくりだけは昔ながらの手法が重宝されてんのも不思議よね。
辻󠄀 やっぱり持つとかさわるっていうのは、五感の中でも安心感があるというか、わかりやすいやんか。だからホントはね、店に行ってそういうとこも面白がって服買わないと勿体ないと思うよ。
德田 生地の良さって、いきなり100%を理解するのって凄く難しいと思うけど、たくさんの服を実際に見たり着たりしてたら「何これ?全然違う!」っていうのはわかるから。
辻󠄀 それは言えてる。いまってEC全盛やし、何でも知識としてまずアタマの中に入るのよ。でもそれは体験じゃないからね。
德田 結局は生地って比較やもん。比較しないと善し悪しってわからないのよ。ちょっと余談なんだけど、カットソーの吊り裏毛の生地ってあるでしょ。
ーーいまもスエットに使ってる生地ですよね?
德田 そうそう。量産できるシンカーっていう機械で織った生地と、1日1反しか編めない吊りの裏毛と、ホントにそんなに違うんかな?って疑問に思って、つくってみたことあってね。
ーーえ、シンカーで、ですか?
德田 そう。
辻󠄀 吊りにするとコストもかかるしさ、なかなかできあがらへんしさ、制約も多いしさ、その頃はボクも德田さんも「ホンマに世間が言うほど吊りの裏毛っていいの?」って、眉唾やったから。
ーーシンカーの生地で商品もつくったんですか?
辻󠄀 つくった。商品にした瞬間はね、ぶっちゃけわかりません。新品の状態でテーブルに置かれて「ハイ!どっちがどっち?」って言われたら、まあよっぽど生地づくりに携わってる人とか以外はわからないと思うわ。
德田 着心地も最初は何も変わらないしね。
ーーじゃあ、どうしてそのまま使い続けなかったんですか?
辻󠄀 ずっと着込むやん。そしたら2年後ぐらいからまったく違うもんになってくるのよ。
ーーどう違うんですか?
德田 シンカーの生地は軋んでくる。もう不思議なぐらい。
辻󠄀 洗うごとに生地が硬くなるというかね。それからは、やっぱり吊りじゃないとアカンってことになって、ずっと使い続けてる。
德田 でも、やってみてよかったよね。それで気持ちがしっかり固まったし。やっぱり長く着て欲しいっていう気持ちでモノづくりしてるから。
ーーそんなに変わるんですね。
德田 古い時代はスピードも上げられないからゆっくり織る。そういうことを大事にしてる生地って風合いが損なわれないのよ。古き良き時代じゃないけど、今回のランスロットコートの生地では、そういうのも追求してみたかった。
ーーランスロットコートって、他にはどんな生地があるんですか?
德田 縮絨をかけたウールツイード。
辻󠄀 それ、こないだYouTubeでしゃべったし、「詳しくはこちらで」って入れといて(笑)。
ーーいやいや(笑)。
辻󠄀 まあそれは冗談として、ひと言でいうとね、英国羊毛ツイードをイメージしたクラシックなウール。
ーーいい雰囲気してますね。
辻󠄀 昔のイギリスのコートとかジャケットの生地って、よう見たらケンピが混ざってんのよ。人間でいうと白髪みたいなもんでね、羊毛本来の性質を失ってしまってるから死毛って言われたりもすんねんけど。
ーーそれは、わざと混ぜてあるんですか?
辻󠄀 どやろ? わざとなんか紡績の技術が低かったんかはわからないけど、それが凄く牧歌的というか素朴でいい感じなのよ。色にも染まってないしね。でも、最近は紡績も良くなって、ケンピの入った生地ってなかなかないのよ。
ーー取り除かれてるんですか?
辻󠄀 そやろね。美しく仕上げてあるのが多いわ。でも、懐古主義じゃないけど、そういう牧歌的な雰囲気もあって、尚且つ離れて見るとチェックが浮かび上がってくるという装飾もカッコいいなと思ってコートに使わせてもらいました。
德田 この生地はと、さっきお話しさせてもらったパープルのウールは、スクーカムとコラボしたスタジャンやジャケットにも使ってる。
ーー27周年のバッジがいっぱい付いてるスタジャンですね。
德田 そうそう。
ーーコートの裏地はどうなってるんですか?
德田 ブルーナボインではお馴染みのスパッタリング。あの薄さからは考えられなぐらい蓄熱性があるという。
ーーあれ、ほんとに凄いですよね。電車乗ったら暑いときありますもん。
德田 あとランスロットコートはデニムでもつくった。
ーーどんなデニムですか?
德田 高密度で極限まで糸を打ち込んだデニム。最初からコートに使うつもりだったから毛羽が少なめのコンパクト糸で織ったやつ。
ーーいわゆるデニムとは手触りも全然違いますね。
德田 5ポケットのとは雰囲気からして違うでしょ。そしてそして、これは内側がほら! どう? この真紅の裏地。
ーーちょっと眩しいです(笑)。
德田 でしょ。最初に裏地だけ出来上がってきたときは、ちょっと派手すぎるしどうしようかと思ったけど、デニムと合わせたら映える映える。キルティングで綿も入ってるから、デニムだけどアウターとしても着てもらえるという。
ーーデニム素材のアウターって、意外と少ないですもんね。今年はメルトンはないんですか?
德田 あるよ。継続してます。SUPER140をブレンドした贅沢なメルトンの。このメルトンはホントにクオリティが高いからね。
辻󠄀 まさに「やさしさに包まれて」やね。
ーーユーミン(笑)。これの裏地は?
德田 メルトンだけはキュプラ。エレガントな雰囲気に仕上げたかったから。ランスロットコートって、襟にウォッシャブルレザーを使ってるのもポイントなのよ。
辻󠄀 雰囲気がグッと締まるからね。
ーー確かに。ところでランスロットコートの「ランスロット」って、どういう意味なんですか?
德田 アーサー王物語に出てくる伝説の騎士の名前。円卓の騎士の一員でね、その人が着てたらカッコいいだろうなっていうのをイメージして付けた。
ーー円卓って、円いテーブルのことですか?
德田 そう。選ばれた騎士だけが座れるテーブル。四角のテーブルには絶対に上座ってできるでしょ。でも、円にすることで誰が上座とか関係なく、全員が対等な仲間だっていうアーサー王の気持ちを表したっていわれてる。
ーー勉強になります。
德田 今ごろアーサー王はアヴァロン島で寝てるはずなんやけどなー。
ーーアヴァロン島って、確かジョナパンの生まれ故郷ですよね?
德田 違う違う。ジョナパンの故郷は、アヴァロン島の向こうにある小さな島(笑)。
ーーあ、そうでした(笑)。ランスロットコートは全種類、もう店頭に並んでるんですか?
德田 並んでます! 好みのサイズ感とか素材の雰囲気とかも確かめて欲しいので、是非店頭で手に取ってみてください!