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2025.02.21

Specialpage【vol.17】

2年掛けた生地に宿る

日本のものづくりの誇り。

ーー今日はサピエンスCシリーズのお話をお願いしたいんですけど。

辻󠄀 できるまでに2年掛かった生地ね。

ーー2年! 何がそんなに時間掛かったんですか?

辻󠄀 ちょっと話逸れるけど聞いてくれる?

ーーもちろん。

辻󠄀 いまってSDGsとかサステナブルとか、無駄をなくしていきましょう、みたいな流れに世の中がなってるやんか。もちろんそれは素晴らしいことなんですけど、先の先まで辿っても、ほんまにみんなできてるんかな? っていうモヤモヤした気持ちが、ずーっとあって。

ーーなかなか難しい問題ですね。

辻󠄀 まあそれと一緒にしていいのかはわかりませんけど、綿の世界でもスーピマとかスビンとか、いわゆる超長綿がもてはやされててね。もちろん、いいものなんですよ。でもみんながみんな、それ使ってれば間違いないみたいな流れになってるからね。

ーー凄く日本人的な発想ですよね。みんなと一緒が安心っていう。

辻󠄀 そやねん。でも、上質な超長綿をつくるときでも、繊維長の短い落ち綿って必ず出るのよ。

ーー極端な言い方をすると、廃棄されることもある繊維ですよね。

辻󠄀 そうです。優秀な綿ばっかり集めたはいいけど、じゃあ振り落とされた綿はどうすんの? っていう話でね。たとえばボクは日本人やんか。でも、世界にはアメリカ人もいればフランス人もいてるやん。みんな国は違うけど同じ人間で、必要ない人なんてひとりもいないし、人としての値打ちはみんな同じ。繊維が短くても同じ綿なんです。それで新しい価値観の出るようなものをつくるのが、ボクたちの仕事ちゃうんかと。

ーーパチパチパチパチ(拍手)。

辻󠄀 で、そんな話を生地屋さんにしたら、「それ面白いからやりましょうよ!」ってノってくれた人がいて、プロジェクトが動き出したんです。それが2年前。でも、いざやってみたら全然できなくて(笑)。

ーー何が難しかったんですか?

辻󠄀 まず糸が撚れない。

ーー繊維が短いからですか?

辻󠄀 そう。それにいままでそんな細い糸を撚ったことがないから。それでどうにかこうにか糸にしてもらって、機屋さんに糸を持ち込んで試織してもらったら、ボクらが求めてたのはシャツにできる薄い生地やってんけど、糸が切れて切れて生地にならなくて…。

德田 糸の打ち込みも考え直したし、弱い糸を2本で撚って双糸にしてみたり、最終的には紡績のやり方から考えてもらったりして、ほんとにいろんなこと試して、リアルに2年掛かったもんね。

辻󠄀 でも、おかげさまでね、ほんとにいい生地ができたと思う。風合い、発色、どれも自然でめちゃくちゃエレガント。力強さもあるし、優しさもあるし、綿の持ってる能力とか可能性をめちゃくちゃ発揮できてると思う。ツルッとした綺麗な風合いのまだその先に、美しいものを見つけたというか。食べものでいうたら、噛みしめた先にまだその上を行く美味しさがあった、みたいな。

德田 みんなの知恵の結晶みたいな生地よね。

辻󠄀 いろんな人たちに助けてもらったからね。優秀なものでスマートなものはできるけど、優秀じゃないっていうと語弊があるかもやけど、目立たないものでも集めて工夫すれば面白いものができる。

ーーそれで「サピエンス(知恵のある)」なんですね。

辻󠄀 いいアイデアを思いつくことができても、やってくれる人がいなかったらできないからね、ボクらの仕事は。30年弱、ものづくりに携わってきたけど、イチから考えてつくったら、面白いものってまだまだできるんやっていうのを、この生地に教えてもらった気がするもん。

ーーサピエンスシリーズの生地は、着込むとどんな感じになるんですか?

辻󠄀 いつまでもツルッとしてるんじゃなくて、だんだん風合いが出てくる。毛羽も出るとは思うけど、それもこの生地の個性として楽しんでいただけたら。ひとつ面白いのがね、こういうスペシャルな生地って、直営店に来てくれはるインバウンドの人とか、海外のお客さんの方が反応いいねん。

ーー文字とか写真とかパッと見だけでは伝わりづらいですけど、試着したらいままで経験したことのない着心地だからですかね。

德田 ベーシックでシンプルなものを上質な素材でっていうのがブルーナボインの基本なんだけど、どうも日本では派手なプリント柄のイメージが先行してるみたいで(笑)。

ーーそれも確かにありますけど(笑)。

德田 もしかしたら、いまの時代に一番難しいアイテムかもしれないけど、ブルーナボインのものづくりの面白さを噛みしめていただけるシリーズだと思います、サピエンスは。

ーーこのシリーズは結構いろんなアイテムがあるんですよね?

辻󠄀 そうなんです。実は2年掛けて出来上がった生地が、最初にボクたちがイメージしてたより、少しだけ厚みがあったんです。で、これはパンツとかジャケットにしてもいけるな、と。だからジャケットとパンツ、あとはシャツが3種類。

ーーシャツだけで3種類もあるんですか!?

德田 そうなんです。お馴染みのスナフタイプと、ちょっとクラシカルなプルオーバータイプ。あと、ベーシックなフルオープンのシャツもあるんだけど、それは今回は白しか展開しない。

ーーどうしてですか?

辻󠄀 もともとサピエンスシリーズの生地って、白シャツをつくるために企画した生地やねん。だからデザインも極力シンプルにして、この生地の素晴らしさを堪能してもらえるように白1本勝負にした。

德田 白シャツってなかなか買い物リストの上位に入れてもらえないアイテムなんだけど、これは洗いざらしで着てもらったら、ほんとにめちゃくちゃ雰囲気ある。デニムともよく合うしね。

辻󠄀 白シャツはいいよ。着てて気持ちいい。

ーージャケットはどんな感じですか?

辻󠄀 左の前身頃にラウンドポケットが付いててね、ワークでもミリタリーでもない、ちょっと不思議な感じ。シャツっぽくも使えるし、1枚あると重宝すると思います。ボクも大好きなアイテム。

德田 あとはパンツかな。1プリーツ2タックで、シルエットがとても美しい。

辻󠄀 パンツは正直、安くないと思います。もうちょっと値段を抑えたかったんですけど、最高のスラックス仕立てを追求したらこれが限界でした。でも、生地、縫製、パターン、カラー全てが最高です。新しくは見えないけど、すべてにおいて新しいアプローチを試みました。このパンツができたとき思わず万歳したもん(笑)。

德田 ルックブックみたいにセットアップで着てもらっても美しいしね。

辻󠄀 正真正銘、世界で初めての生地だと思います。この生地さわってたら、日本のものづくりが誇りに思えてくるもん。

德田 2年掛けた甲斐あったよね。

辻󠄀 心から、そう思います。

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