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2025.03.24
Specialpage【vol.18】
絵描きにとって
キャンバスは命
ーーブルーナボインって、デニムに対しての向き合い方が独特ですよね?
辻󠄀 そうかな?
ーービンテージデニムのリプロダクトを意識するブランドが多い中、明らかにそこは目指してないじゃないですか(笑)。

德田 それは確かにそうかも。
辻󠄀 ボクたちって第一次リプロダクトブームを経験してるのよ、30年ぐらい前に。生地はこうとか、糸はどうとか、いかにビンテージに近づけるかに命かけておられるメーカさんがいくつかあったけど、そこと勝負する気はなかったというか。
德田 アメリカンカジュアルをやりたかったわけではないもんね。
辻󠄀 そうそう。でもボクも德田もデニムは好きなのでね。ブルーナボインを立ち上げたときに着物の生地を使ってアロハをつくったのよ。それに合うデニムって何やろ? って考えたときに、それはやっぱり日本で染めてる本藍のデニムがいいんちゃかって話になって。
德田 それでつくったのが「阿波正藍」。取引先に見せたとき「アホちゃうか」って言われたよね(笑)。
ーーどうしてですか?
德田 本藍って、なんでいきなりそんな難しいアイテムつくったん?って。
辻󠄀 でも、最終的にめちゃくちゃ売れたから(笑)。
德田 諦めないで根強く続けたもん。あれはやっぱり当時の取引さんが面白がってくれたのが大きかったんちゃうかな。
辻󠄀 それは確実にある。世の中にないものをつくって欲しいっていう風潮やったわ。同じようなもんはもういいねん、みたいな。

德田 だから阿波正藍のあとも、玉縁ポケットで江戸時代の古布みたいに緑っぽく色落ちするダーラデニムパンツとか、いわゆる5ポケットのジーンズにカテゴライズされないものばっかりつくってた。あと、ピーターパンツみたいに、一見ベーシックだけど、視点を変えてデニムをつくったりとか。
辻󠄀 ピーターパンツは時間掛かったわ~。
德田 しっかりオンスがあるように見えて、穿き心地はライトオンスという生地がなかなかできなくて。
ーー正反対のことをやろうとしてますもんね。
德田 ただライトオンスにするだけだったら加工したときに全然味が出なくてね。それで糸の打ち込みを極限まで減らしたりして、何回も試織してもらって。あと、ピーターパンツは丈も思い切ったもんね、はじめからクロップ丈にして。
辻󠄀 ボクは最初、反対してんけど(笑)。でも、やるんやったら丈を短くするだけだったら面白くないから、ポケットの位置を下げたり大きくしたりして、大人が寸足らずのジーパンを穿いてるみたいなイメージでつくった。
德田 「ピーターパンツ」って名前を思いついたときは、我ながら天才かと思ったもん(笑)。
辻󠄀 ピーターパンが穿いてそうやな、いうてな。
德田 そうそう。
ーー今シーズンからリニューアルしたんですよね?

德田 そうなんです。丈が長くなって「ピーターパンツ3世」になりました。
ーーピーターパンツ=クロップ丈のイメージだったんですけど、どうして長くしたんですが?
辻󠄀 時代やね。ピーターパンツを初めてつくったときとは、みんなの体型が変わってきてる。
德田 特に足の長さなんて明らかに違うし、私たちがイメージしてたバランスと変わってきてることに、ふと気付いて。
辻󠄀 このまま続けてたら何十年後かには膝丈になってたかもしれんし(笑)。
ーー人間の進化、そんなに速くないでしょ(笑)。
德田 いままで通りの丈で穿きたい人はカットしてくれたらいいしね。
ーーそれは確かにそうですね。いろんな丈で穿けたら、コーディネートの幅も広がりますし。
德田 あとはフロントがジッパーになったのと、細かい部分もいろいろバランスを見直しております。
ーー定番で一番新しいところだとビュッシュデニムですか?

辻󠄀 そうですね。もうだいぶ前やけど。
德田 デニムのシルエットって、いろいろあるでしょ。ブーツカットとかもカッコいいとは思うんだけど、ブルーナボインのイメージとはちょっと違うな~…じゃあどんなシルエットが面白いかなぁ…っていろいろ考えて生み出したのがビュッシュの極太シルエット。
辻󠄀 ビュッシュって「丸太」っていう意味なんです。そのイメージで。
德田 最初に展示会出したとき、全然人気なくてビックリしたよね(笑)。
辻󠄀 ホンマに。絶対イケると思ったのに、置いてくれたのはレディースのショップだけで、まっっっったく売れへんかった(笑)。
德田 これをいいって言ってる、自分たちがおかしいんかな? と思ったりもして(笑)。
辻󠄀 でもなんでもやり続けなあきませんね、いまはほとんどビュッシュやもんね。
ーー時代が追いついたんですね(笑)。
辻󠄀 でもやっぱりデニムは面白いよ。いまリプロダクトつくってる人たちって、たぶんプラモデルつくってる感覚だと思うんです。それも理詰めで。
ーーどういうことですか?
辻󠄀 船の模型とかつくる人いてるでしょ。ほんまの船とまったく同じ素材で。それをジーパンでやってるような感じ。
ーーつくり続けてると、行くとこまで行くしかなくなるんでしょうね。
德田 皆さんが追求してるのはリアルなビンテージ感だったり、穿き込んだときの表情だったりするけど、でもブルーナボインってそこ目指してないからね。
辻󠄀 いまちょっとまたデニムがブームみたいになってるでしょ。もちろん、モノの善し悪しもあるとは思うけど、結局はストーリーがウケてると思うのよ。
ーーどういうことですか?
辻󠄀 うちは当時と同じミシンで縫ってますとか、うちは生地に命かけてます、みたいな。でもブルーナボインはそれないから(笑)。
ーーいや、でも加工とか、めちゃくちゃリアルじゃないですか。
德田 もちろんそこは妥協なくやってるんだけど、加工にこだわってるんじゃなくて、全力を注いでるのはキャンバスに見立てたデニムにどんな絵を描くか。

辻󠄀 そうそう。ずーっと言い続けてるけど、ボクらにとってデニムはキャンバスなんです。絵描きにとってキャンバスは命なので、結果としてベースのデニムにも妥協できないのよ。
德田 糸の番手とかもパーツで使い分けてるし、ステッチの運針もインチで指定してるしね。
辻󠄀 そう。デニムってアメリカにルーツがあると思ってるから、パターン引くときから全部インチで考えてる。いい感じにアタリが出るよう、縫い代も徹底的に追求してるし。結局ね、キャンバスさえしっかりしてたら、何しても大丈夫なのよ。加工したときにカッコいいカタチと表情の出る自家製のキャンバスのおかげで、ブルーナボインの面白デニムは成り立ってるんです。
ーー面白デニムって(笑)。
辻󠄀 加工デニムって言うてしまうと、なんか楽しそうな感じしないでしょ(笑)。
ーー確かに。「面白デニム」の方が、なんかちょっとワクワクしますね。
辻󠄀 デニムって、まだまだいろんな面白いことできる可能性秘めてると思うねん。
德田 5ポケットにこだわらなくても、面白いアイテムいっぱいできるしね。私の場合はデザインデニムに惹かれるところがあるから、今シーズンもちょっと面白いデニムをつくってみた。
ーーどんなデニムですか?
德田 ビュッシュデニムがベースなんだけど、カウボーイのチャップスから着想を得て、脇にちょっと不思議な素材の入ったデニム。

ーー確かにカウボーイっぽいですね。ちょっとスタン・ハンセン思い出しました(笑)。でもこういうのって、どうやって思い付くんですか?
德田 辻󠄀さんが新しいウエスタンシャツ(Queen of Nightシャツ)を考えてるっていうから、だったら私も何かウエスタンなイメージのデニムを考えようってところから始まった。マチの分量変えたり、脇のフリフリを手作業でほぐしたり、なかなかの手間がかかってる。
ーー面白デニム以外に、フェリシンデニムとビュッシュデニムに関しては、去年リジッドがリリースされたじゃないですか。いままで頑なにプレーンなリジッドをリリースしてこなかったのに、何があったんですか?
辻󠄀 ワンウォッシュは出してたのよ。加工でここまでいい感じになるんやったら、シルエットも綺麗しワンウォッシュで展開させて欲しいっていうバイヤーさんがいたから。それって言い換えると、しっかりつくってるキャンバスがいいってことでもあるのでね。皆さんも自由に絵を描いてみてくださいって想いで出したんです。ほんとはペンとか刺繍糸とか付けたかってんけど。自分で描いたり刺繍したりできるように。
ーーそれも面白いですね。ほかにブルーナボインのデニムの楽しみ方って、何かありますか?
辻󠄀 まずは店でも誰か友達が持ってるのでもいいから、とりあえず穿いてみて欲しいかな。真面目なデニムって、ラルフローレンがタキシードに合わせてたみたいに、何にでも合うんですけどね。
ーー確かに困ったらデニム穿いとけば何とかなる、みたいなところはありますね。
辻󠄀 でも、ブルーナボインのデニムは、そうじゃない(笑)。
ーーえ!?
德田 いろんなリメイクが入ってたりするから、トップスもよく考えないとエラいことなるよ(笑)。でも逆に言うと、一発でスタイリングがキマるときもあるからね。
辻󠄀 ほんとにキャンバスに絵を描いてる感覚でつくってるからね、着こなしが難しいモデルもいっぱいあるんです。でもそういう部分を楽しんで欲しいのよ。バシッと決まったら因数分解が解けたみたいな気持ちよさがあるから。結局さ、岡本太郎さんが昔「グラスの底に顔があってもいいじゃないか」って言うてはってんけど、それと同じ発想なんです。
德田 意味はないけど面白い、みたいな。
辻󠄀 大事なことやね。
德田 リベットに招き猫とか笑門来福の刻印したり、タックボタンに桜の刻印したりしてるのも、製造上の意味があるかといわれたら、ないもんね(笑)。ただ、そうした方が面白いからやってるだけで。


辻󠄀 デニムって本来は自由の象徴だったはずなのに、当時と同じようなものづくりをしようと思うと、どんどん型にハマっていかないとダメでね。多分、それが嫌なんです、私たち(笑)。
德田 いまデニムは日本が世界一だって言われてるけど、リプロダクトとは全く違う視点でデニムと向き合ってるブランドがあるってことを、世界中のデニム好きに知って欲しい!