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2025.04.12
Specialpage【vol.19】
躊躇のないものづくりには
ストーリーが宿る
ーーブルーナボインのカットソーって、生地もデザインもプリントもバラエティに富んでるじゃないですか。つくるときって、何を一番大事にしてるんですか?
德田 その時々でいろいろなんだけど、カットソーって肌に一番近いものでしょ。なので生地のことはいろいろと試行錯誤するかな。
辻󠄀 もうね、カットソーの生地屋さんって日本中にめちゃくちゃあんねん。別注なんかしなくても十分なクオリティの生地もいっぱいあるし。
德田 もう凄いよ。
辻󠄀 新作もどんどん出るし、生産量も多いから値段もそこまで高くないねんけど、もうひと味、何かあったら嬉しいのになぁ…っていう生地も結構あるのよ。

ーーブルーナボインで使うには、クオリティだけではダメってことですか?
辻󠄀 そういうことじゃないねんけど、面白いものをつくりたいとか、いままで世の中になかったものを出したいとか、それを着ることによって新しい発見があるとか、クオリティにプラスアルファで、そういうところを求めてしまう気持ちが、ボクらは人一倍強いんちゃうかな。
ーーそれはなんとなくわかります。
辻󠄀 こないだ「天々高々(てんてんたかたか)」のライブに行ってきてん。MOROHAのアフロくんと、シンガーソングライターのヒグチアイちゃんの音楽ユニットやねんけど、アイちゃんがピアノ弾きながら歌って、そこにアフロくんのラップでもなければ歌でもない物語が入ってくるという。それ観たときに、もうビックリして。
ーーなんでなんですか?
辻󠄀 めちゃくちゃ新しかってん。いままでにないもん観せてもらったわって。あれはみんな観た方がいい。
ーーそんなにですか?
辻󠄀 そんなに。で、その前日にアフロくんと食事したときに、糸井重里さんと対談したときのことを彼が話ししててね。「そんなに新しいものばっかりつくれないし、つくらなくてもいい」みたいなことを言われたんやて。
ーー確かにそうですよね。
辻󠄀 ボクもそう思ってたから、それ聞いてちょっと安心してんけど、天々高々のライブ観たら、やっぱり新しいものをつくっていかなアカンわって、めちゃくちゃ思わされた。お客さんがどう思うかとか、こんなんつくったら怒られるんちゃうかとか、躊躇しながらものづくりするのはよくないわ。
ーー躊躇されると、受け取る側も構えてしまいますもんね。
辻󠄀 芸人さんとか、まさにそうやんか。躊躇したら面白ないやん。とにかくボクらの使命は、お客様の心のどこかをユルくでもいいからギュッと掴むようなものをつくること。カットソーの素材に関しては、そういうのをずーっとやってる。
ーー例えばどんな生地ですか?
德田 わかりやすいのはフェリシンポケTかな。あのドライタッチな風合いはまさしくそうで。

辻󠄀 ドライタッチってわかる?
ーーもちろん。
辻󠄀 でもいまの人たちって、ドライタッチでは伝わりにくいねんて。
ーーなんか難しい時代ですね。じゃあ、なんて言えば伝わるんですか?
辻󠄀 どやろ? カサッとしてる、とか(笑)。
德田 まあそのカサッとした風合いがなぜいいのかっていうと、やっぱり暑い季節に着る服だから、肌触りがしっとりしてるよりかは、乾いた感じでカサッとしてる方が心地いいでしょ。
ーー確かに。
德田 いっかい着てもらったら質感の違いが凄くよくわかるから、フェリシンポケTはめちゃくちゃリピーターさんが多い。
ーー生地をつくるのも難しいんですか?
德田 簡単ではないよね。カットソーって編んでる途中で糸が切れたりしたら困るから、ユルく撚った糸を使うのが一般的なのね。でも敢えて撚り回数の多い布帛の糸を使うから、あの質感が出せるんだけど、その糸をカットソーの編み機にかけるためには、機械の一部を改造しないといけないのよ。
辻󠄀 それを嫌な顔ひとつせずに「いいですよ、やりましょう!」っていってくれるニッターさんが、ボクたちの周りにいてくれてるのが一番凄いけど。
德田 カットソーって、できるできないがハッキリしてる素材だと思うんです。その中でブルーナボイン流の遊び心をどこで表現するかっていうのを、常に考えながらつくってる。例えば今シーズンのコンコルディアスエットとかは、ペーパーライクっていうと語弊があるかもしれないけど、本当に薄くて、でも生地自体はしっかりしててね。薄い生地って普通はいっかい着たらフニャってなるんだけど、そうならない素材にしたくて徹底的に追求した。
辻󠄀 「極」(KIWAMI)のTシャツも型崩れには強いよな。
德田 強いね~。カットソーって服の中でも特に経年変化が見られるアイテムだと思うのね。だからフォルムが崩れた方がカッコいいのか、崩れない方がイケてるのかをもの凄く考えてつくる。「極」(KIWAMI)のTシャツは手触りだけでいうと、夏に不向きなぐらいの厚みがあるんだけど、糸の撚りを工夫して、できるだけ体から離れるようにしてるから、真夏でもみんな着てくれてるもんね。

辻󠄀 その代わり普通のカットソーの4倍ぐらいの糸を使ってるけど。
德田 スエットのボディも面白いよ。この春夏のプリントシリーズのボディもそうなんだけど、イメージはビンテージのチャンピオンの裏毛。その中でも、ある年代のボディだけが凄く表情豊かなんだけど、それと同じ風合いを持っててね。着込むとサイズ感がユルくなるというか、もの凄くいい感じにダレるのよ。
辻󠄀 ただ、ボディはユルいけど、フライスは全然ユルくない。最初に頭入れるとき「堅っ!」って思われるかもしれんぐらい(笑)。でもそこを我慢して着込んで欲しいのよ。そしたら、だんだんイイ雰囲気になってくるから。そこをわかってもらえたら、めちゃくちゃ楽しいと思います。酒のアテになると思うもん(笑)。

德田 それはまたマニアックなアテで(笑)。私の中でこのスエットは、デニムがいい感じに育つのと同じ感覚があるかな。やっぱりカットソーって、フライスとかの付属も重要なので、そこもいろいろ考えるよね。
辻󠄀 重要って勝手に思ってるだけやけど(笑)。
德田 そうかも。重要というか、ただ好きなだけやわ(笑)。
ーーあと今シーズンのアイテムだと、大きなルーラブーラ柄を立体的に表現したスエットも面白いですよね。

德田 あれはいままで大切にメンテナンスされてきた、昭和初期の機械に手を加えてもらって編んでもらったんです。
ーーそれは値打ちありますね。聞いてると、カットソーそれぞれアプローチがまったく違ってて、全部にストーリーがあるじゃないですか。
德田 そうなんです。もっといろんなところで語った方がいいかな?
ーー是非! みんな聞きたいと思いますよ。あと、聞きたいといえばカットソーのプリント柄なんですけど、あれはどうやって決めてるんですか?
辻󠄀 それはやっぱり、テーマからインスピレーションを得るのが一番かな。
德田 そうね。今シーズンは「LOVE LETTER」がテーマだから、夏目漱石の粋な和訳をイメージしたプリント(ツキキレT)だったり、愛をささやく唇がいっぱいプリントされてたりする(ily T)。
ーーあれは誰の唇なんですか?

辻󠄀 それは言えません(笑)。
德田 ジョナパンシリーズは、テーマとはまた別で考えることも多いんだけどね。
辻󠄀 今シーズンはどんなんやったっけ?※4月下旬入荷予定
德田 ツアーT(笑)。ジョナパンがバンドを率いて惑星ツアーに出かけるという。ルートとか日程をじっくり見てもらったら面白いよ。適当じゃなくていろいろ考えてスケジュール組んでるから。
ーー千穐楽が8月8日なのは、何かあるんですか?
德田 ジョナパンの誕生日なのよ(笑)。
ーーまさかの(笑)。
德田 あとプリントに関しては、いかにメッセージを伝えるかっていうのを考えることも多いかな。「I WANNA SAFETY MARK」ってプリントしたTシャツとか、いろいろやってきたもんね。

ーー「I WANNA SAFETY MARK」って、どういうメッセージだったんですか?
辻󠄀 いまから25年ぐらい前かな。大きな食中毒の事件があったんです。食品でも何でも、みんなやっぱりブランドのロゴとかマークを信用してるとこあるやん。
ーーありますね。
辻󠄀 でもそれって、凄く恐いっていうと語弊があるかもしれんけど、安全を示すマークではないのよね。ボクたちが求めてるのは、本当の安全を示してくれるマークなんですっていう願いを込めてつくったんです。
ーーステーキのTシャツもやりましたよね。狂牛病のときでしたっけ? 売り上げの一部を宮崎市役所に直接持ち込んで寄付したという。
辻󠄀 やったやった。
德田 コロナのときはステッカーつくったし、ウクライナ侵攻のときはバッジつくったし、大きなくはないけど、私たちなりに声は上げてきたよね。そうそう。メッセージといえば辻󠄀さん、ヒンディー語のスエット(2024SSのアザデススエット)着てて、道で声かけられたんだって。
ーー何てですか?
辻󠄀 自転車乗ってて信号で止まったら、外国の人がボクを指さしてクスクス笑ってんのよ。で、どうしたん? って聞いたら、ナイスや!みたいな感じで言われて(笑)。
德田 ヒンディー語で「自由」って描いてあるからね、あのスエット。
ーーどこの国の人だったんですか?
辻󠄀 バングラデシュ。
ーーまたひとつストーリーができましたね(笑)。でも、カットソー着てると、ホントによく声かけられますし、声かけられたっていう話もよく聞きます。
德田 それはめちゃくちゃ嬉しい。カットソーって、そういう軽やかなノリも必要だし、そこを大事にしてる部分もあるから。
辻󠄀 プリントから入ってもらってもいいですし、生地に興味を持ってもらってもいいし、この春夏は何か1枚でもいいから、ブルーナボインのカットソーを手に取ってみてください。楽しい春夏を過ごしてもらえる自信ありますので(笑)。