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2023.09.14
Specialpage【vol.7】
アランとドンエン、
革たちはどう活きるか。
ーー今日はレザーのお話をしていただこうと思ってるんですけど。結構前からやってますよね、レザー?
德田 やってる。アランジャケットって、いつが最初やったっけ?
辻 もう15年ぐらいになるんちゃうかな。
ーー継続してるアイテムで一番古いですか?
辻 いや、スタンディングパーカーの方が古いんちゃう。何か資料残ってないかな?
德田 確かグリーンを一番最初につくったよね、アランは?
辻 そうそう。そっからカラーもんばっかり。黒の革ジャンは世の中にいっぱいあるから、ボクたちがつくる必要ないって、その頃は思ってたから。
德田 いい根性してるよね(笑)。(資料がでてきて)あったあった。アランジャケットは2009年にブルーとグリーンで誕生したんでございますよ。いまから14年前。
ーーカラー名が「マリン」と「アース」。シャレてますね。
辻 そうやったっけ。もうあんまり憶えてないわ。
德田 でも、襟の立ち上がりの角度とか、ものすごく細かい修正を重ねてカタチにしたのは憶えてる。
辻 アランジャケットはね、とにかく革を細かくカットすることなく、大きなパーツでどれだけ立体的に仕上がられるかっていうのに、ある意味、実験的に挑んだアイテムなのよ。
ーーどうしてカットしたくなかったんですか?
辻 革ってね、1枚で見ると、状態のいいところもあれば、キズが入ってたりするところもあるのよ。でも、世の中的にはキズが入ってる=悪い、みたいな感じで言われたりもするわけですよ。そもそも悪いとこってなんやねん? っていう話でね。
ーーキズはあって当たり前ですよね。もともとは自然界のものですし。
辻 そやねん。そのキズをカットしたり、塗装で目立たなくすると、革が本来持ってる美しさが損なわれてしまうのよ。だからできるだけ大きい版で見せて、革本来の美しさをジャケットで表現しようとしたのがアランジャケットの原点。縫製してもらってる職人さんにも言われたからね、「これは贅沢なもんやな~」って。
德田 できるだけ革を剥がないように、あらゆるディテールを削ぎ落として美しく仕上げるために、パターンもめちゃくちゃ考えたもんね。
辻 考えたわ~。例えば、いわゆるライダースジャケットとかリーバイスの3rdタイプのGジャンみたいに切り替えを多用すると、どれだけデザインしても、どっかで見たことあるような雰囲気になってしまうねん。だから、ホントに難しかった。
ーーでも、その甲斐あってアランジャケットって、ほんとに独特なフォルムに仕上がってますもんね。美しいです。
德田 あと、剥ぎが少ないと、着込んでいったときに凄く自分の体に沿ってくるから心地いい。
辻 ちゃんと着たら、ちゃんと自分のカタチになってくれるから、もの凄い愛着出てくるよ。
ーーアランジャケットは馬革ですよね?
辻 そう。今年はリアルシュリンクレザーのタイプもあるけど。
ーー最初のリリースから馬革だったんですか?
德田 最初から馬革。ブルーナボインでレザーを手がけようってなったときに単純に思ったのよ、革ってカッコいいけど、なんでこんなに重いんかな、と。それで「繊維が細かくて、ラッカー塗装とかしなかったら凄く軽いんです」って見せてもらったのが馬革で。あ、この革でつくった服着たい! って直感的に思ったもん。牛革は馬より繊維が太いからガッチリしてて、それはそれでカッコいいんだけど、私的にはもうちょっとエレガントに革を着たいって思ってたから、馬革はまさに! って感じだった。
辻 最初の頃はクロム鞣しやったけどね。
ーーえ、そうなんですか?
辻 そうなんです。でも、あるタイミングで、革の締まり具合とかポテンシャルを活かすには、タンニン鞣しの方がいいってことになって変えましてん。で、鞣した後はベースの色に染めて、あとは薄い色の染料でお化粧直し程度にサッと仕上げするだけ。
ーーいわゆる“素上げ”というやつですね。
辻 そうそう。ペンキを塗るみたいにベタッと色を付けてないから、着込んだら色も表情もどんどん変わってくる。
ーー面白いですね。
辻 その辺まで見越して、今シーズンだったらダークグリーンとかライトグレーを選んでもらったら、もっと面白いと思うよ。もうちょっとだけ革の話していい?
ーーもちろんです。
辻 何年か前から、動物愛護の観点で動物素材を使わないっていう流れが顕著になってきてたりもするやん。
ーーありますね。ハイブランドとかは特に。
辻 でも、ボクたちが使ってる革って、馬も牛も羊も食用としていただいた後に残った副産物なんですよ。命をいただく以上は肉だけ食べてハイさよならじゃなくて、可能な限り使い切るっていうのが、いただいた命に対する最大のリスペクトやと思うねんけど、間違えてるかな?
ーーいや、ボクもそう思います。
辻 だって、みんなが何気なく日常で使ってるものにも、例えば油分だったりコラーゲンだったり、動物由来の成分が入ってたりするからね。
ーーそこを突き詰めていくと、いつか日常生活に支障をきたしますよね。
辻 確かに鞣したあとの排水の問題とか、革の切れ端はどうすんねんとか、いろんな問題もあったけど、それももう大部分がクリアされてるから。逆に「革は使いません」っていうとこが増えて、「じゃあもう工場やめます」ってなったら、いままで培ってきた技術とか知恵がそこで途絶えてしまうからね。
ーーうーん、なかなか難しい問題ですね。角度によって見え方も違うでしょうし。
德田 まあまあ、いい悪いでひと括りにできる問題じゃないけど、副産物として出る革に関しては、使わせていただくのがベストかな。無駄しないっていうのはエコにも繋がるし。
辻 そやね。食肉文化が続く限りは、世の中にあった素材だと思いますよ、革は。
德田 でも、そう思たらギャートルズって、もの凄い理想的な生活してはったよな。
辻 どういうこと?
德田 自分らで狩りした肉を自分らで食べて、残った革で服とか敷物つくって、骨も髪飾りにしてはるし。
ーーめちゃくちゃエコじゃないですか(笑)。話は変わるんですけど、さっきチラッと話にも出てきてましたけど、今シーズンはリアルシュリンクレザーもあるんですね。
辻 あるんです。牛革のね。何年か前にディアスキンでやっててんけど、その工場が廃業しはって。
德田 あの革、凄くよかったのにね。
ーーほかの工場ではできないんですか?
德田 できないのよ。さっきの例じゃないですけど、そうやって工場がひとつなくなってしまうと、設備とか加工の技術も含めて、2度と手に入らなくなってしまうからね、いまは。
辻 まあ、そんなことで、ちょっと男クサいというかワイルドなシュリンクレザーをやりたいって、ずっと思ってたんですよ。そのときに、ベルトで使ってるシュリンクレザーを、何とか衣料用に鞣し直せなかな? って思ったのが始まりでね。上手いこと仕上げていただだきました。
德田 ちょっとハードな感じで、もの凄い雰囲気いいよね。
ーーこれは、どうやってシュリンクさせてるんですか?
辻 濃度の違う植物タンニンを張ったピット槽が何個かあってね。そこに順番に静かーに漬けて鞣していく。ドラムでグルグル回す鞣し方と違って、時間も手間も大きな敷地も必要になってくるから、なかなかやってくれるというか、できる工場自体がココしかない。で、鞣し終わった革って、普通はちょっと伸ばしたりすんねん。
ーー何のためにですか?
辻 例えば1センチの革を3センチに伸ばしたら、3倍の値段で売れるやんか。でも、ブルーナボインのシュリンクレザーは、伸ばさないで風だけで乾かしていくから、この風合いに仕上がる。
ーーそれだけでこの雰囲気になるんですか?
辻 1週間ぐらいかけて、ゆっく~り乾かすからね。
ーーそれって革が縮むことで、シボが生まれてるってことですよね?
辻 そう。全部ナチュラルにできたシボ。だから表情が1枚1枚違う。尚且つよく鞣されてるから“鳴き革”っていって、革が動くと「キュッキュ」って音がする。いまシュリンクレザーっていうと、伸ばした革にエンボス加工でシボを付けてるのがほとんどやからね。
ーーいわゆる型押し、ですよね。それだと音は鳴らないんですか?
辻 鳴らへん。営業のオッチャンが後ろに隠れて「キュッキュ、キュッキュ」言うてたら知らんけど(笑)。
ーーいや、すぐバレるでしょ、それ(笑)。ちなみにアランジャケット以外にも、リアルシュリンクレザーがつかわれてるモデルってあるんですか?
德田 B&Aジャンパー(9月中旬入荷予定)っていう新作の革ジャンと、あとはドンエンガスジャケット。
辻 ドンエンね。
ーーそう略すんですね(笑)。B&Aジャンパーに関しては、また別でゆっくりお話してもらう機会をつくりますのでひとまず置いといて、「ドンエンガス」って、どういう意味なんですか?
辻 アイルランドのアラン諸島にイニシュモア島っていう島があってね。そこにある古代遺跡の名前。
ーーアランジャケットの「アラン」もアラン諸島からきてるんですよね? そっからの繋がりですか?
辻 はい。うまくは説明できませんけど、ボクの中では繋がってます。
德田 どんな風景で着ると雰囲気いいかっていうのをイメージしたら、その島に辿り着いた、みたいな。
ーーなるほど。ドンエンガスも、レザージャケットとしてはかなりシンプルなフォルムですよね。
辻 そやね。ドンエンガスもアランと同じで、ひとつのパーツを大きく使ってるから。できるだけシンプルに仕上げて、大きなパーツで革本来の持ち味を楽しんで欲しい気持ちでつくった。だから裾も袖口も、リブとかで絞るのはやめて、往年のやり方だけどゴムを入れてみた。襟元のリブも革で表現してるしね。
ーーゴム入ってる革ジャンって、なかなかないですよね。
辻 ないない。縫うの大変やって言われるもん。
ーーやっぱり(笑)。
辻 革を引っ張りながら縫わなあかんからね。
ーー工賃、高そうですね。
辻 いや、ここまでくるとアランジャケットもそうやけど、工賃が高いとか安いとかじゃなくて、やってくれるかどうかのレベル。
ーーそれは値打ちありますね。ずっと同じ工場で縫ってるんですか?
德田 立ち上げたときから、ずーっと一緒の工場さんに縫ってもらってるよね。
辻 ずーっと一緒で、いまは息子さんと娘さんも縫ってくれてる。
德田 引き継ぎができてほんとによかったよね。さっきのディアのシュリンクレザーじゃないけど、いまは引き継ぎが一番難しいといっても過言ではないから。
ーーどの業界も人手不足極まりないですもんね。そういえば革ジャンの裏地の柄って、最近は統一してるんですね。
德田 そうなんです。前はシーズンでいろいろ変えてたんだけど、いまは着物の八掛からインスピレーションを得た柄で統一してて。
ーー八掛、ですか?
辻 簡単にいうと着物の裏地。袖口とか袖とか、八カ所に付いてるから八掛。
德田 昔は地紋とかをあしらった八掛も多かったからね。ブルーナボインのアイコンでもあるコウモリと桜とブランドロゴを、八掛のイメージで配置して、ジャガード織りで表現してみた。もともとブルーナボインって、ジャパニーズスピリッツを感じるアイコンを大切にしてきたところがあるので、その想いを裏地に込めてみました。
ーーあと何か、コーディネートでオススメってあったりしますか?
德田 やっぱりニットでしょ。
辻 ニットはよろしいわ。革とニットは最高の組み合わせ。
ーー今シーズン、ニットってありましたっけ?
德田 それが…あるのよ(笑)。デリバリーはまだちょっと先だけど、サンキューロビンでカシミヤ100%のカーディガン(オーブリーカーデェ )を仕込んでて。でもちょっと肉感があるので、アランよりはドンエンガスに合わせてもらった方がいいかも。
辻 アランはやっぱりあれやで、中は薄く着て、上からコート羽織るのがカッコいいと思うわ。
德田 前にGジャンと合わせてはる人がいて、それもめちゃくちゃカッコよかったけどね。
辻 とにかくね、買う買わないは別にして、いっかい袖を通してみてください。お値段的にも敷居が高いかもしれませんけど、後悔させませんから。
德田 そうそう。レザーは黒って人も、全カラーひと通り着てもらったらいいんじゃないかな。着ると高揚感も溢れてくるし、探してもなかなか見つからないようなカラーもあるし。
辻 それにしても今シーズンのグリーンは、いい色出たよな~。
德田 出たね~。私が色出ししてんけど、久しぶりに辻さんに褒められたもん(笑)。
ーー超自信作じゃないですか。ちなみにいままで何回かグリーンのレザーつくってると思うんですけど、全部微妙に違うんですか?
德田 もちろん。並べてみたらわかるけど、その時代の空気感とか雰囲気とかコレクションアイテムとの相性を考えて、毎回変えてる。ブルーも何回かやってるんだけど、それも全部違う。
ーーいままでつくったレザー集めたら展覧会できそうですね。
德田 できると思う(笑)。黄色とかピンクとかパープルとか、いろんな色やってきたもん。これからレザーにちょうどいい気候になってくると思うので、是非是非、店頭で手に取ってみてください。